スペシャル対談

しものまさひろ×伊藤一輔 対談
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しものまさひろスペシャル対談 第1回
対談1

【しもの】:伊藤先生からご連絡いただいて、2015年、日本笑い学会北海道支部の「八月八日・北海道笑いの日」笑立宣言大会に出演させてもらいました。

【伊 藤】:アトラクションのひとつとして「あへあほ体操」をやってもらいましたね。

【しもの】:ところで、伊藤先生は「あへあほ体操」をどこで知ったんですか?

【伊 藤】:糖尿病の患者さんがいてね、その患者さんの検査結果が良い状態が続いていたので、何か特別なことをしているのか聞いてみたら、「スポーツクラブで『あへあほ体操』をやっている」と。何だろうと思って、YouTubeで動画を見てみた。

【しもの】:最初に見たときに、どう思いましたか?

【伊 藤】:動画での紹介は、ほんの一部だけれども、興味深かった。腹式呼吸を重視した体操だとすぐ分かり、健康によさそうだと思った。体操中の「あへあほ」という発声は、僕がずっと関心を持ってきた「笑い」と関係するしね。

対談2

【しもの】:笑いと、ですか?

【伊 藤】:あ「へ」あ「ほ」は、ハ行の音でしょ。笑いの「あはは」もハ行。世界中どこでも、笑いは「あはは」ですからね。表記は言語によって異なるけれど。
それに「ははは」で息を吐くところも、「あへあほ」の腹式呼吸に通ずる。

【しもの】:じつは、初めにハ行ありき、でした。「はひふへほ」の発声は、どれも吐く息を勢いよく出せて、お腹を凹ますのにいいなと思って。武道のかけ声も「ハッ!」とかですし。

【伊 藤】:ああ、それが先だったんだ。

【しもの】:理論的な裏付けは、その後ですね。
運動指導者になってから、ずっとドローイン(お腹を凹ませる体操)をやってきたけれど、専門書に書いてあるように腹横筋や横隔膜に効いているのかどうか。
それを確かめようと、お医者さんの研修会のような場所に忍び込んで、質疑応答の際に前に進み出て質問したこともあるんです(笑)。

対談3

【伊 藤】:ほんとうに?

【しもの】:はい。お腹を出してドローインをしながら「これは実際にインナーマッスルに効いていますか」と。壇上のお医者さんには「あなた、医者じゃないですね」と、もうバレバレ。

【伊 藤】:そうだろうね(笑)。

【しもの】:でも「ドローインは効果があるから続けて結構」と答えてもらったので、自信を持って運動のプログラムに取り入れることができました。
以来、レッスンや講演などで「あへあほ体操」を広めていますが、2014年には累計1万レッスンを達成しました。

【伊 藤】:体操の方法やプログラムへの組み込み方とか、「あへあほ体操」は細かく進化を続けてるみたいだね。

対談4

【しもの】:はい。伊藤先生にアドバイスしてもらった「ロングあへあほ」も取り入れてみました。
ふつうは「あへー、あほー」というところを「あへーーーーーー、あほーーーーーー」と長く、ゆっくりと息を吐くやり方ですね。

【伊 藤】:ヨガや太極拳をはじめ、世界の主だった健康法の核心は呼吸法ですからね。
ふつうに呼吸しているときは、肺の酸素換気は1/4しかできていない。残り3/4は肺の中に残ったままです。腹式呼吸で、ゆっくりと深呼吸すると、この酸素換気の割合を高められる。つまり、新鮮な酸素をもっと身体に取り込めるということです。
ゆっくりと吐くのが効果的。息をゆっくり吐かないと、はかない人生になる。

【しもの】:それ、いただきます(笑)。

【伊 藤】:呼吸にはさまざまな筋肉がかかわっているから、それらを鍛えられるのも「あへあほ体操」の利点でしょうね。
たとえば腹筋が鍛えられると腹圧が強くなって、便秘解消につながったりするしね。副次効果がいろいろ期待できそうです。

【しもの】:そうですね。「あへあほ体操」を続けている人にどんな効果が出ているか、生徒さんの声をもっと細かく聞き取りしてみたくなりました。

しものまさひろスペシャル対談 第2回
対談1

【しもの】:お腹をヘコませるドローインを体操に取り入れて、体操教室の生徒さんにも効果を感じてもらっていたんですが、ある生徒さんに「インパクトが無くて、やり方を忘れちゃう」と言われまして。
それで息を吐くことを意識させる「あへあほ」という名称を考えましたけど、最初に「あ」の音を入れることが大事だと思ったんですよ。なんだか、直感で。

【伊 藤】:その点にも笑いとの共通性がありそうだね。
たぶん笑いとは、「あっ!」と驚いて交感神経が高まるんだけれど、すぐに安心して「ははは」と息を吐くことで副交感神経が優位になる――そういう現象だと思う。

【しもの】:交感神経と副交感神経ですか。

【伊 藤】:体をコントロールする自律神経は、交感神経がアクセルと副交感神経がブレーキの役割を担い、「あはは」というのは、交感神経の優位が入れ代ることで、しかも副交感神経の方が長く働く。これは健康にとって大切なのですよ。

【しもの】:そうお聞きすると、自分で思っていた以上に、「あへあほ体操」は理にかなってるみたいですね。

【伊 藤】:とくに息を吐くことを意識したことが良いね。
ゆっくりと長く息を吐くことは、副交感神経を優位になり緊張が解けてリラックス状態となり、これによって血圧や脈拍が落ち着く。睡眠や精神活動に関わる神経伝達物質の癒しのセロトニンの分泌も促される。
自律神経、内分泌、免疫系――呼吸法は、これらをコントロールする唯一の手段なのですよ。

対談2

【しもの】:いろいろな効果があるんですね。

【伊 藤】:ところで、いちばん最初に「あへあほ体操」を体験した生徒さんたちの反応は、どうだったの?

【しもの】:その前に、体操を考案した僕自身、抵抗がありました(笑)。昨日までごく普通の体操をやっていたのに、いきなり30人の生徒さんの前で「あへあほ」言うわけですから。
「おしゃれに、カッコよく教える」という、既存のスポーツトレーナーのイメージにとらわれていたんだと思います。でも、生徒さんが楽しく和んで続けられる方法を導入するのなら、まずは僕自身が殻を破ることが大事でした。
ドキドキしながら、たぶん顔も赤くしながら、僕が「あへあほ」とやって見せて、生徒さんがみんなで発声してみると、なんとも平和な感覚、照れ笑いのなかの充実感、一体感からくる和み……そんな雰囲気に包まれました。その時、「よし、これでいける」と思いました。

対談3

【伊 藤】:みんなでやるから、照れや恥ずかしさもすぐに無くなっていくでしょう?

【しもの】:はい。でもいちばん最初に体験した30人の生徒さんたちは、正直、キツかったと思う(笑)。

【伊 藤】:キツかった、と(笑)。

【しもの】:とにかく、この9年間は普及に努めてきました。「あへあほ体操」を実践する人が増えて、スタンダードな体操になるほど、新しく始める人の抵抗感はなくなりますから。

【伊 藤】:良い体操だし、みんなで楽しくやれるのが利点でもあると思う。楽しいことと、みんなで取り組めることは、長続きさせるための条件だからね。とくに日本人には向いている方法ではないかな。

対談4

【しもの】:そうですか。僕はグループ指導が好きなので、そう言ってもらえると、うれしいてす。

【伊 藤】:それから、ポジティブであることが重要でしょうね。
生活習慣病の介入研究というのがあって、どうすれば生活習慣の改善が図れるか試すのだけれど、ネガティブな方法はうまくいかない。ネガティブというのは「○○したらダメ」と患者さんに禁止するもの。
比較的うまくいくのはポジティブな方法。これは「○○したらどうだろう」と患者さんに提案したり、勧誘したりするもの。

【しもの】:少しズレるかもしれませんが、雰囲気づくりという点では、体操指導にも言えることですね。
「これができなきゃダメ」ではなくて、「今回はここまで、できましたね。この調子で、次はもうひとつ上をめざしてみましょう」とポジティブにもっていく。

【伊 藤】:それによる心理的効果も大きいと思いますよ。

しものまさひろスペシャル対談 第3回
対談1

【伊 藤】:医者があれこれ言うよりも、同じ病気の患者同同士で体験を話し会う方が、生活習慣の改善も長続きします。
だから、「あへあほ体操」もインストラクターの指導だけでなく、実践している生徒さんが効果を語り合う機会があると、継続して取り組んでもらう上で、いいんじゃないでしょうか。

【しもの】:なるほど、そうですね。

【伊 藤】:生活習慣の改善では、取り組みが楽しいこと、そして仲間と一緒にやることが効果的です。くわえて、具体的な目標があると良い。

【しもの】:たしかに目標は大事ですよね。
レッスンに通ってくる生徒さんのなかに90代の方がいるんですけれど、もう3年ほども「あへあほ体操」を続けてます。やっぱり、目標を持ってますね。それは「2020年の東京オリンピック」。

【伊 藤】:出るのですか?(笑)

【しもの】:いえ(笑)、東京へ自分で見に行きたい、と。これを聞いて、とても感動しました。

対談2

【伊 藤】:良い話ですね。

【しもの】:高齢の方が「あへあほ」の効果を報告してくれるのは、特にうれしいものです。
この間も80代の方が「検査をしたら、骨密度が高くなっていた」と話してくれました。「思い当たるのは『あへあほ』しかない」と。

【伊 藤】:体操そのものの効果だけでなく、体調がよくなったり、気分がよくなったりして、今までよりも外歩きをするようになった結果かもしれないしね。
詳しく聞いてみると、他にもあるかもしれない。寝つきがよくなったとか、食が太くなったとか、お通じがよくなったとか。

【しもの】:僕を含めインストラクターが個々に耳にしている例は、いろいろあると思いますが、ちゃんとまとめてみたことはないですね。

対談3

【伊 藤】:それは、やってみると良いですよ。
しもの君は、今後「あへあほ体操」をどう展開していきたいの?

【しもの】:より広い層に知ってもらい、それぞれの生活の中に取り入れてもらいたいですね。
たとえば、家庭でラジオ体操がわりに毎朝やってもらったり、会社の朝礼の際にやってもらったり。

【伊 藤】:それぞれの現場で取り入れやすいメニューを、インストラクターが考えてあげると、良いだろうね。

【しもの】:そうですね。僕たちの仕事だと思います。
それからアスリートにも「あへあほ」を活用してもらいたい。
意外と体幹が鍛えられていないケースが、けっこうあるんです。逆に言えば、「あへあほ体操」で体幹を鍛えると、競技でのパフォーマンスが高まる余地があるということです。
実際、オリンピック経験者に「あへあほ体操」を体験してもらったことがあるんですが、ちょっとしたショックを受けるみたいです。思いの他、効くようで。
一緒に「あへあほ」と発声するのがトップクラスのアスリートなので、教室の生徒さんたちも喜ぶ、喜ぶ。すごく笑顔になります。
こんな笑顔を北海道から日本全国へ、世界へと広げたい。仲間のインストラクターたちと抱いているイメージがあるんです。それは世界中の人たちが一斉に「あへあほ体操」をやっているところ。戦争をしていても武器を置いて「あへあほ」と言ってもらいたい。やってみたら何かを感じると思う。

対談4

【伊 藤】:それは素敵なイメージだね。
「笑いヨガ」というものをインドの医師がたった5人で始めたんだけれど、いま世界に広がっている。その理由のひとつは、エビデンスの説得力でしょうね。効果を医学的、生理学的に証明するデータを蓄積した。これがあれば、世界のどこでも受け入れられやすくなるから。

【しもの】:なるほど。そのあたりは疎くて手が回っていない部分でした。

【伊 藤】:「あへあほ体操」もその効果のエビデンスを検証すると良いのですが。北海道内の大学にもスポーツ科学を研究する学科がいくつかあるから、研究対象に取り上げてもらうといいかもしれない。
そうすれば、素敵なイメージの実現に近づけますよ。ぜひ、がんばって。

【しもの】:次のステップが、いろいろとクリアに見えてきました。本当にありがとうございます。

  • 伊藤 一輔
    医学博士、日本笑い学会理事・同会北海道支部長。
    1947年北海道生まれ。弘前大学医学部卒業。専門は循環器内科・循環器心身医学。
    北海道大学循環器内科、東京女子医大付属日本心臓血圧研究所、国立病院機構西札幌病院、国立病院機構函館病院院長を経て、2014年同病院名誉院長、北海道国民健康保険団体連合会常任委員、日本笑い学会理事・北海道支部・支部長。
    著書「良く笑う人はなぜ健康なのか」日本経済新聞出版社
  • よく笑う人はなぜ健康なのか
    (日経プレミアシリーズ)