
「腹式呼吸」は、学ぶものではなく“思い出す”もの
「腹式呼吸」と聞くと、あなたはどんなイメージを持ちますか?
多くの人は、「お腹を膨らませて深く吸う」「肺を意識する」「背筋を伸ばして座る」といった“正しいやり方”を連想するかもしれません。そして、まるでスポーツや技術のように、腹式呼吸を“学ばなければならないもの”だと感じてしまいます。
しかし、ここにこそ大きな誤解があるのです。
実は、腹式呼吸は「がんばって身につける技術」ではありません。
むしろ、本来は誰もが持っていた“呼吸の記憶”を思い出すことが、腹式呼吸の本質なのです。
腹式呼吸の天才は、赤ちゃんだった
この答えを教えてくれるのが、「赤ちゃんの呼吸」です。
あなたは、寝ている赤ちゃんをじっくりと見たことがありますか?
お腹がふわ〜っと大きく膨らみ、そしてゆっくりとしぼんでいく――。その様子はまさに、理想的な腹式呼吸そのものです。
赤ちゃんの胸はほとんど動かず、お腹全体がリズミカルに呼吸しています。
しかも、赤ちゃんは誰かから「腹式呼吸はこうやってやるんだよ」と教えられたわけではありません。
教科書も読んでいないし、レッスンを受けたこともない。それでも、生まれたその瞬間から、完璧な呼吸ができているのです。
これはとても不思議なことに思えるかもしれませんが、それこそが「自然な呼吸」の証です。
人間の身体には、本来必要な機能が“最初から備わっている”ということ。腹式呼吸は、その代表例だと言えるでしょう。
僕たちは、もともと腹式呼吸ができていた
つまり、こう言い切れます。
僕たちは皆、生まれたときから腹式呼吸ができていたのです。
あの「オギャー」という産声も、お腹の底から声を出しているからこそ響くのです。

肺と横隔膜、そしてお腹まわりの筋肉が連動して、命の声を届けている。
それはつまり、生まれた瞬間から“腹式呼吸マスター”だったということ。
けれども、大人になるにつれて、僕たちはその感覚を忘れてしまいます。
学校生活、社会の常識、人間関係、ストレス……
たくさんの情報やルールに囲まれて生活するうちに、自然だった呼吸はどこかへと置き去りにされていくのです。
腹式呼吸は、「思い出す」だけでいい
だからこそ、腹式呼吸は新しく学ぶのではなく、「思い出す」ことが大切なのです。
「こうしなければならない」「正しい呼吸を覚えなきゃ」と気負う必要はありません。
むしろ、肩の力を抜いて、赤ちゃんだった頃のあなたに“戻っていく”。
それが、もっともスムーズで、もっとも自然な腹式呼吸の入り口です。
自分の中にすでにある感覚――
それを信じて、余計なものを脱ぎ、自然な呼吸に身をゆだねる。
それこそが、真の腹式呼吸を手に入れる最短ルートなのです。
大人になると“呼吸”が下手になる理由
年齢を重ねるにつれて、僕たちは「呼吸が下手」になっていきます。
呼吸が下手になるのは「年齢」のせいではない
子どもの頃、もっと言えば赤ちゃんの頃には、僕たちは本当に自然に、深く、のびのびと呼吸ができていました。お腹の底から息を吐き出し、全身で空気の流れを感じていたはずです。
それが、成長するにしたがって、どんどん難しくなっていく。
でも、それは単に「体力が落ちたから」「筋力が衰えたから」ではありません。
むしろ、僕たちは成長とともに――“余計なもの”を身にまとってしまうから、呼吸がぎこちなく、浅く、硬くなっていくのです。
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見えない“心の鎧”が、呼吸を浅くする
僕たちは成長とともに、さまざまな“見えない鎧”を身にまとっていきます。

それは物理的なものではなく、心や意識の中に積み重なるものです。
ストレス:常に評価され、時間に追われる日々
現代社会に生きる以上、ストレスは避けて通れません。
緊張状態が続けば、体は無意識に防御姿勢を取り、呼吸も浅くなります。
恐れ:失敗への不安が呼吸を縮こまらせる
人から否定されることや、将来が不安になると、人は自然と胸を閉ざし、呼吸が浅くなります。
プライド:「弱さを見せられない」思い込み
“ちゃんとしなきゃ”“カッコよく見せなきゃ”という意識が、リラックスを遠ざけます。
結果、呼吸も自然体ではなく「作られたもの」になってしまいます。
社会的なレッテル:役割に縛られてしまう大人たち
「親として」「上司として」「社会人として」…
こうしたレッテルが、自分らしさを奪い、呼吸さえも不自由にしてしまいます。
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呼吸の浅さは“鎧の重ね着”の結果
こうした心の鎧が、僕たちの中に1枚、2枚、3枚…と重なっていくことで、
気づけば身体は常に緊張状態に陥ります。
• 奥歯で咬みしめている
• 肩が常に上がりっぱなし
• 胸が硬く、深く息を吐けない
• 日常的なため息、慢性的な疲労感
…そんな状態になってはいないでしょうか?
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本来の腹式呼吸を取り戻すカギは「脱ぐこと」
腹式呼吸とは、本来“お腹の底から自然に息を吐き出す呼吸”。
身体がゆるみ、心が落ち着く――それが本来の呼吸の姿です。
でもそれを“新たに学ぼう”とする必要はありません。
「身につける」のではなく、「脱ぎ捨てる」
ストレスの鎧
恐れの鎧
プライドの鎧
レッテルの鎧
こうした“内側にまとった重み”を、一枚ずつ脱ぎ捨てていくことが、呼吸を自由にする第一歩なのです。

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呼吸を整えることは、「自分を取り戻す」こと
呼吸を整えるとは、単に健康のためのテクニックではありません。
自分らしく生きるための、本質的な行動です。
呼吸が整えば、感情も整う。
感情が整えば、姿勢も行動も整う。
すべての土台には、「呼吸」があるのです。
腹式呼吸に戻る鍵は、「吐く」こと
ここで、もう一つ重要なポイントをお伝えします。
呼吸は「呼吸」と書きますが、最初の文字は「呼」。つまり、「吐くことが先」なのです。
でも現代人は、多くの場合「吸おう、吸おう」としてしまいます。
• 深く吸おう
• 息をたくさん入れよう
• 新鮮な空気を取り込もう
こうした意識が、かえって身体を固くし、リキみを生み、呼吸を浅くさせてしまいます。
大切なのは「吐く」こと。しかも、お腹の底からしっかりと吐き出すこと。
たまったストレス、感情、緊張を――
声とともに「吐き出す」ことが、最高のリセットになります。
「あへあほ体操」が導く、本当の腹式呼吸
僕が18年間指導してきた「あへあほ体操」は、この“吐く”ことを徹底的に重視したメソッドです。

あへあほ体操の基本
• 「あーへーあーほー」と発声する
• 「へ」と「ほ」でお腹を凹ませる
• それを楽しみながら繰り返す
たったこれだけ。難しい理論も、複雑なテクニックも必要ありません。
声を出すだけで、体が勝手に呼吸を思い出す。赤ちゃんの頃の呼吸を、自然に再起動させる。それが、あへあほ体操の真髄です。
ハ行の魔法:お腹から声を出す日本語の力
あへあほ体操には、呼吸と深く関わる秘密があります。
それが、「ハ行」。
手のひらを口に近づけて
「ハヒフヘホ」と声に出してみてください。
次に、「マミムメモ」と比べてみてください。
気づきましたか? ハ行は、口から大きく空気が出ていきます。お腹の奥から声が出る感覚があるはずです。
武道や気合いの掛け声にも使われる「ハッ!」や「ホッ!」。これらは、自然と丹田(下腹部)に力が入る発声です。
あへあほ体操は、このハ行の発声に着目し、腹式呼吸を呼び戻すために最適化された運動です。
まとめ:腹式呼吸を「思い出す」ための第一歩
あなたの中にも、赤ちゃんの頃にできていた、素晴らしい腹式呼吸の記憶があります。
難しいことは考えず、まずは、あへあほから
• 声を出してみる
• 思いきり笑ってみる
• 「あへあほ」と唱えてみる
それだけで、心も身体も、驚くほど軽くなるはずです。
鎧を脱ぎ、素の自分に戻る。それが、真の腹式呼吸。
そしてその先に、ストレスのない毎日、リラックスした身体、そして自然なエネルギーに満ちた生き方が待っています。