こんにちは。あへあほ体操しものまさひろ です。
僕は、2007年5月に発声とドローインを活用して、呼吸や体幹を整える”あへあほ®体操を作りました。以来18年にわたり、腰痛予防・姿勢改善・呼吸トレーニングを軸に、全国の医療・介護・フィットネス現場でのべ1万人以上の方へ指導し、あへあほ体操の認定インストラクターも45名育成してきました。
今回は、その根幹にあるの、腹横筋(ふくおうきん)という筋肉について、その働きと、科学的根拠、僕自身の現場経験を交えて、
専門家にも一般の方にもわかりやすくお伝えさせて頂きます。
【1】腹横筋とは?──お腹の奥にある“天然のコルセット”
腹横筋は、お腹の最も深層にあるインナーマッスルです。

左右からお腹を包み込むように横方向に走っており、外からは見えません。
ですがその働きは非常に重要で、主に以下の機能を担っています。
• 体幹の安定化(とくに脊椎や骨盤を支える)
• 腹圧のコントロール(排便・排尿・発声・咳・呼吸などに関与)
• 姿勢の維持(立位・座位時の安定)
• 呼気の補助(息を“吐く”ときに使われる)
腹横筋は、いわば“見えない土台”。
ここが働かないと、腰痛・猫背・呼吸の浅さ・ぽっこりお腹・尿もれなど、さまざまな問題が現れやすくなります。
ドローインとは?
「ドローイン」は、腹部の深層筋(インナーマッスル)を鍛える呼吸法を取り入れたエクササイズで、リハビリや日常の健康維持に効果的です。特に腹横筋や多裂筋、骨盤底筋群などを活性化させ、体幹の安定性を高めます。
このエクササイズは、仰向けに寝て膝を立てた状態で、鼻から息を吸いお腹を膨らませ、口からゆっくり息を吐きながらお腹を凹ませるという動作を繰り返します。お腹を凹ませた状態で呼吸を続けることで、インナーマッスルを効果的に鍛えることができます。
ドローインを継続することで、姿勢の改善、腰痛の予防・軽減、ウエストの引き締め、スポーツパフォーマンスの向上など、さまざまな効果が期待できます。特別な器具や広いスペースを必要とせず、日常生活の中で手軽に取り入れられるため、継続しやすいエクササイズです。
あへあほ体操は、ドローインに発声を組み合わせた新しい呼吸法です。
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【2】科学が証明した腹横筋の“動作の前に働く”力
腹横筋の重要性を世界に広めたひとつのきっかけが
オーストラリアの神経生理学者Paul Hodges(ポール・ホッジス)博士の研究です。
● Hodges博士の代表的研究(1996〜1997年)
Hodges PW, Richardson CA.
Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain. Spine. 1996.
Feedforward contraction of transversus abdominis is not influenced by the direction of arm movement. Exp Brain Res. 1997.
この研究では、次のようなことが明らかにされました。
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● 健常者
• 手や足を動かすわずか200〜300ミリ秒前に、
腹横筋が無意識に“先に”収縮し、脊柱の安定を確保している。
● 慢性腰痛患者
• この“先行収縮(フィードフォワード機能)”が遅れる、あるいは消失している。
• その結果、脊柱が不安定なまま動作が始まり、痛みや不調が起こりやすくなる。
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つまり、腹横筋は「動作中に使う筋肉」ではなく「動作の前に働く筋肉」だったのです。
この発見は、リハビリテーション・運動療法・トレーニング界に大きな影響を与え、
現在の体幹トレーニング、ドローイン、コアスタビライゼーションの理論的土台となっています。
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【3】僕と腹横筋の出会い:1冊の専門書から始まった探求
僕が腹横筋という筋肉に夢中になったのは、2003~2004年頃。
1998年4月から2003年年3月まで、陸上自衛隊にいました。職種は特科部隊にいました。
自衛隊員をやりながら、持続走訓練隊という自衛隊員で構成された特殊な駅伝チームに所属し強化選手として活動していました。

訓練中の度重なる腰痛と入院をきっかけに、身体の構造とリハビリを独学で学び、その後、2003年4月より、スポーツトレーナーを本格的に目指しました。
そのとき出会ったのが、医学書院の名著
『脊椎の分節的安定性のための運動療法―腰痛治療の科学的基礎と臨床』でした。

この本で紹介されていたHodges博士の研究から、
「腰を守る本当の筋肉は、見えない深層にある」ことを知り、私は衝撃を受けました。
そこからは、毎日ドローインを実践し、自分自身の身体で研究と記録を続けました。
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【4】“声と呼吸”で腹横筋を自然に活性化——あへあほ体操の誕生
実践を重ねる中で、ひとつの仮説が生まれました。
「声を出しながらドローインすれば、腹横筋はもっと自然に働くのではないか?」
この仮説をもとに誕生したのが、
声を出しながらお腹をへこませる独自メソッド「あへあほ®体操」です。
• 「あ〜・へ〜・あ〜・ほ〜」と発声
• 呼気の長さ・圧力をコントロール
• 腹圧が自然に高まり、腹横筋が働きやすくなる
• 子どもから高齢者まで、誰でも楽しく継続できる
名前こそユニークですが、Hodges博士の研究や上記の書籍から大きく影響を受け、ハ行の発声を応用した「あへあほ体操」が出来ました。
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【5】学術発表と18年間の実績
2024年、私は日本予防理学療法学会にて以下の演題で発表しました。
演題:『あへあほ体操が体幹筋群および呼吸機能に及ぼす即時的効果』
腹横筋にアプローチするエクササイズとして、
“あへあほ体操”は、楽しく・効果的に・継続しやすいという点で評価されていますが、
それだけではなく、科学的裏づけがある運動療法としても実証が進んでいます。
その大きな一歩が、2024年の日本予防理学療法学会での学術発表でした。
この発表では、体幹深部筋(腹横筋を含む)と呼吸機能の即時的な変化について、
臨床的な視点から検証した結果を報告しました。
研究の背景
従来の腹横筋トレーニングは、ドローインやブレースといった静的な方法が主流でしたが、
高齢者や運動初心者にとっては「分かりづらい」「続けにくい」という声も多くありました。
そこで私は、「発声を組み合わせることで、より自然に腹横筋が活性化するのでは?」という仮説のもと、18年前からフィットネスや介護・医療・福祉分野の現場でも活用されてきた「あへあほ体操」の即時的効果を検証することにしました。
概要
• 腹横筋を含む深部筋の筋活動が向上
• 呼気流量・呼気持続時間の改善
• 発声を伴うドローインが即時効果をもたらすことを確認
この結果、あへあほ体操は科学的にも有効な運動療法であると証明されつつあります。
これまでの18年間で、のべ5万人以上に指導、創始者としての「あへあほ」実践回数は累計80万回超。
介護施設や医療、フィットネス現場でも導入が広がっています。
検証のポイントと結果概要
• 呼気時の発声を加えたドローインによって、
腹横筋の筋活動(表面筋電図による測定)に有意な増加を確認
• 呼気流量の向上および呼気持続時間の延長(呼吸筋持久力の即時的改善)
• 発声の有無によって、自覚的な取り組みやすさと楽しさも向上
結果として、“呼吸+発声”という要素が、腹横筋の即時活性に有効である可能があると私は考えています。
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第11回 日本予防理学療法学会学術大会 セッションID: O – 29
「あへあほ®体操」が体幹筋群の筋機能および呼吸機能に及ぼす即時的効果 より引用
抄録
【はじめに、目的】
超高齢社会の訪れとともに,健康寿命を延伸することが求められる.健康寿命の延伸を目的とした取り組みの中で,呼気中に発声を繰り返しながらお腹を凹ませる運動である「あへあほ®体操 」を開発し,介護予防や健康増進活動を行っている.本体操は,高齢者でも習得しやすく,大人数でも取り組むことができ,ポジティブな気分の変化が得られることが利点である.しかし,「あへあほ®体操」が,加齢に伴い低下する体幹筋群の筋機能や呼吸機能に及ぼす効果は明らかになっていない.そのため,「あへあほ®体操」が体幹筋群の筋活動や呼吸機能に及ぼす即時効果を検討し,高齢者の健康寿命延伸に向けた根拠を提供することを目的とした.
【方法】
健常成人13名 (年齢30.0±14.4歳)を対象とした.対象者には,運動介入として10秒間「へ」・「ほ」と言いながらお腹を凹ませる「あヘあほ®体操」を10回3セット実施した.運動介入前後に,スパイロメータを用いて最大呼気時の努力性肺活量 (FVC),1秒量および1秒率を算出し,呼吸機能を評価した.同時に,最大呼気時の内腹斜筋-腹横筋,腹直筋および外腹斜筋 の筋活動量を表面筋電計にて計測した.筋活動量は最大等尺性収縮時筋活動により標準化した.さらに,運動介入前後の腹囲周囲径も測定した.統計学的解析として,運動介入前後での体幹筋群の筋活動量,呼吸機能および腹囲周囲径の比較に対応のあるt検定を用いた.有意水準は5%とした.
【結果】
運動介入前と比較して,運動介入後では内腹斜筋-腹横筋 (p=0.014)および外腹斜筋 (p=0.023)の筋活動量が有意に増加した.一方,腹直筋の筋活動量に有意差は認められなかった (p=0.479).呼吸機能に関して,運動介入後にはFVC (p=0.034)が有意に増加したが,1秒量 (p=0.374)および1秒率 (p=0.106)に有意差は認められなかった.さらに,運動介入後には腹囲周囲径は有意に減少した (p=0.003).
【考察】
体幹深層筋である内腹斜筋-腹横筋の筋活動量が即時的に増加し,「あヘあほ®体操」は通常の腹部引き込み運動と同様の傾向を示した.さらに,「あヘあほ®体操」は発声を伴う運動であるため,呼吸機能を示すFVCが有意に増加した.
【考察・結論】
高齢者でも習得しやすい「あヘあほ®体操」は,体幹筋群の筋機能や呼吸機能に対して即時的効果を示し,介護予防や健康増進に大きく貢献することが示唆された.
【倫理的配慮】
本研究は日本理学療法学会連合倫理審査委員会の承認 (承認番号:R05-007)を得たうえで,被験者に対して十分に説明した後に書面で同意を得た.
【6】腹横筋が変われば、人生が変わる
腹横筋は、直接は見えません。
でも、ここが働けば身体も、心も変わります。
• お腹が引き締まり、姿勢が安定する
• 声が通り、自信が生まれる
• 呼吸が深まり、自律神経が整う
• 腰の痛みが和らぎ、転倒リスクが減る
• 排泄や発声もコントロールしやすくなる
さらに、“自分の中心(コア)を感じる”という感覚が芽生えてきます。
これは、身体感覚と同時に自己認知やメンタルの安定にもつながります。
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【7】まとめ:腹横筋は“見えない中枢”。そして、未来を変える鍵
腹横筋は、ただの“筋肉”ではありません。
それは、動きと呼吸と神経をつなぐ中枢であり、人生の質を左右する要の存在です。
私は、この筋肉を18年かけて見つめ、育ててきました。
そして今も、多くの方に“あへあほ体操”という形で、その目覚めのきっかけを届けています。
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◆ 補足:筋肉以上に大切な、あへあほ体操の価値
ここまでご紹介してきたように、あへあほ体操は科学的にも腹横筋に効果がある体幹トレーニングです。
ですが、僕自身が18年間実践し続けてきた中で、もっと強く感じていることがあります。
それは、「筋肉」以上に大切な“こころの変化”や“人とのつながり”を生む力が、この体操にはあるということです。
【腹横筋だけじゃない】あへあほ体操が教えてくれた“つながり”と“平和感”
「あへあほ体操って、本当にインナーマッスル(腹横筋)に効くんですね!」
最近は、学会発表など、科学的な裏付けとともにそんな声をいただくことが増えました。
もちろん、僕自身も腹横筋を18年にわたって探究し、即時効果の検証データも出しています。
でも正直なところ――
それ以上に「あへあほ体操」には、もっと深い価値がある。
僕はそう実感しています。
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発声するだけで、会場の空気が変わる
ある日の実践会。
参加してくださったのは、60〜70代の女性を中心とした約20名。
はじめは少し照れたような空気が流れていましたが、
全員で声をそろえて
「あー、へー、あー、ほー」
と発声しながら、「へ」と「ほ」でお腹をぐっと凹ませる動きを繰り返していくと――
会場全体が、まるでひとつの音の波になっていきました。
響き渡る“あへあほ”の声。
言葉では表現しきれないような、一体感、心地よさ。
気がつけば、皆さんの顔がふっと緩み、笑顔があふれていました。
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科学的に“効く”だけじゃない、あへあほの可能性
もちろん、体幹の深層筋である腹横筋や内腹斜筋の筋活動が高まることは、
僕自身が実施した研究で確認済みです。
でもそれ以上に印象的だったのは、
「終わった後の会場の雰囲気」でした。
なんとも言えない、平和で、優しくて、あたたかい空気。
たった数10分ほどの体操で、
初対面だった人たちが自然に笑い合い、
帰るときには「またやりたいですね」「今日は来てよかった」と言葉を交わしている。
この空気感をつくれるのが、あへあほ体操の本当の価値だと思っています。
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